日本写真測量学会 関西支部

第106回テクニカルセミナー/空間情報話題交換会の報告


2021年4月30日(金)、テクニカルセミナー/第106回空間情報話題交換会をオンラインにて開催しました。


『地域住民と考える道路閉塞の危険性と避難に与える影響 〜GISとARを活用して〜』

摂南大学 理工学部 住環境デザイン学科 榊 愛 氏

講演資料:
http://www.jsprs-w.org/meetings/data/w0106_sakaki.pdf

密集市街地,道路閉塞,避難,ワークショップ,GIS,AR,VR

 第106回テクニカルセミナー・空間情報話題交換会では,「地域住民と考える道路閉塞の危険性と避難に与える影響〜GISとARを活用して〜」と題して,摂南大学理工学部住環境デザイン学科の榊さまにご講演いただきました.

 大地震が発生すると,特に密集住宅市街地などの道路が狭隘で木造建築物が多い地域では,倒壊した家屋の瓦礫などにより道路が通れなくなる「道路閉塞」が生じることがあります.道路閉塞は住民の避難に支障をきたすだけではなく,消火・救助への影響,さらに,本来ならば届けられるはずの医療品を避難所などへ届けることができないなどといった二次被害にもつながる可能性があります.住民が安全,かつ,円滑に避難するためには,住民自身が道路閉塞の危険性を正しく理解し,避難経路の検討や道路閉塞要因の対策などを平時から取り組んでいくことが求められます.ご講演では,道路閉塞について地域住民を対象としたワークショップやワークショップで活用されてきたGISシミュレーション,ARを用いたアプリ開発・実証実験についてご紹介いただきました.

 これまで道路閉塞の情報を整理し,地図として表現されたものは,発災後,実際に道路閉塞が生じた道路を集計・プロットすることにより作成されてきました。これらは道路閉塞が生じた箇所を把握できる一方で,地図上において道路閉塞に該当していない箇所については,発災時に実際に通行できたかどうかは不明確であるといった問題を有していました.

 そこで,榊氏らは,ワークショップを通じて,大地震発生後の通行可否を予測し,地域内道路を色分けした地図を「地震時避難地図」として作成されてきました.地震時避難地図の作成は,地域住民によって「通れそうな道」を可視化するとともに,そうした道を増やす重要性を地域で共有することで,住民自らによる避難地図づくりにつながっていくことが期待されます.ご講演では,ワークショップにおけるまち歩き前後での住民の意識の変化を検証した結果や多くの写真などを基に,地震時避難地図作成の効果を実際のワークショップの様子を含めてご解説いただきました.

 また,ワークショップ等において道路閉塞の通行の可能性を客観的・相対的に示すことを目的に,道路閉塞のシミュレーション手法を開発されてきました.これまでの道路閉塞のシミュレーション手法の多くは,車の通行の可否を想定するものであった一方で,榊氏らは,人が通行可能な空間の可視化を試みられてきました.開発された手法では,詳細な道路閉塞状況を可視化することが可能になっています.さらに,現在は,専門家ではない教育者であっても防災教育の場で活用しやすいツールを開発することを目的に,ARを用いて自分のまちの被災後の様子を想像することを支援するアプリを開発されてきています.ご講演ではマーカー型,そしてその改良版としてのマーカーレス型のAR体験ツールを実証実験結果とともにご説明いただきました.

 ご講演を受け,会場からは研究としての今後の発展や研究成果をいかに地域へ還元するのかといった踏み込んだ質疑があるなど,活発な議論がみられました.

 ご講演いただきました榊さまにはこの場を借りてお礼申しあげます.


※測量系CPD協議会において認定された学習プログラムとして終了後に参加者へ受講書が配布されました。
※GIS上級技術者の認定を受ける際の貢献達成度ポイントとして申請できる参加証も配布されました。